会長挨拶
第36回日本バイオセラピィ学会学術集会総会
会長 角田 卓也
昭和大学 腫瘍内科 主任教授
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を中心とするがん免疫療法は、カプランマイヤー曲線の「カンガルーテール現象」という完治を思わせる長期生存患者を生み出し、がん薬物療法にパラダイムシフトをもたらしています。今やがん薬物療法の中心的存在であると言っても過言ではありません。しかし、その効果はまだ15-20%程度に留まっており、更なる改善が必要であります。ICIの作用機序は、免疫のブレーキを外すことで強い抗腫瘍効果を発揮することであり、逆に考えれば、既に腫瘍を拒絶する強い免疫能が備わっていて、それが再活性化した現象と考えられます。がんワクチンやサイトカイン療法のように抗腫瘍免疫を新たに活性化する治療法ではありません。この考え方から、患者が持つ強力な抗腫瘍免疫は、患者自身の免疫能に強く依存していることとなります。すなわち、どういう因子が患者自身の免疫能に影響を及ぼすかを研究することも必要となります。
日本バイオセラピィ学会は36回を迎えました。本学会はがん患者免疫能について探求してきた学会であり、益々その重要性が増しています。今回特に「がん免疫療法の臨床」にフォーカスし、多彩なセッションを組みました。実際のがん免疫療法の臨床から得られる患者免疫能に関する情報はとても重要で、臨床効果を押し上げる多くのヒントが隠されていると考えます。そのような貴重な情報をクリニカルクエッションとして掘り下げ、治療効果の改善に繋がればと考えます。もちろん、基礎的な研究発表は重要で臨床に繋がる発表も大いに期待しております。
このたび私が会長を務めさせていただきますが、昭和大学臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学講座吉村清教授と昭和大学臨床薬理研究所臨床腫瘍診断学講座和田聡教授が副会長をお引き受けいただき開催させていただく運びとなりました。また事務局責任者として、昭和大学医学部内科学講座腫瘍内科学部門堀池篤准教授に担当いただきます。
今回のテーマは、「がん=不治の病、その終わりの始まり -がん免疫療法の飛躍-」としました。患者さん自身の免疫能を高めて治療するバイオセラピィの一つであるがん免疫療法の飛躍的な発展によって、がんはついに不治の病でなく、慢性疾患となるまさにその時代の始まりです。さらに、その事実を多くの患者さんやそのご家族に知って頂くことが大変重要であると考え、市民公開講座も企画します。がん免疫療法に関する啓蒙活動を通じ、最新の科学的知識を提供して、安心して治療を受けていただけるようにしていきたいと考えております。